「やる気が出ない」「なぜか続かない」「頑張っているのに、満たされない」――。
私たちは日々、やる気や意欲、つまり“モチベーション”という見えない力に左右されています。
そこで今回は、心理学の世界で非常に有名な「自己決定理論(Self-Determination Theory、以下SDT)」について解説します。
SDTは「人はどのように内発的に動機づけられ、より良い人生を歩むか」という問いに答えてくれる理論です。
自己決定理論とは?
自己決定理論(SDT)は、アメリカの心理学者エドワード・デシ(Edward L. Deci)とリチャード・ライアン(Richard M. Ryan)によって提唱された人間の動機づけに関する理論です。
彼らは、やる気(モチベーション)には外的な報酬や罰だけでなく、自分の内側から湧き出る「内発的動機づけ」が大きな力を持つことに着目しました。
外発的動機づけと内発的動機づけの違い
SDTの基本的な考え方として、動機づけは大きく2つに分類されます。
1. 外発的動機づけ(Extrinsic Motivation)
- 他者からの報酬(お金、評価、賞賛など)や罰(叱責、失敗など)によって行動すること。
- 例:「給料が上がるから仕事を頑張る」「怒られたくないから宿題をやる」
2. 内発的動機づけ(Intrinsic Motivation)
- 行為そのものが楽しかったり、興味を引かれたりして、自ら進んで行動すること。
- 例:「楽しいから絵を描く」「知りたいから本を読む」
自己決定理論では、人は本質的に内発的動機づけを求めており、それによって最大限の成長や幸福感が得られるとされています。
自己決定理論の3つの基本的欲求
SDTでは、内発的動機づけを高め、健やかに生きるために満たすべき3つの心理的欲求があるとされています。
1. 自律性(Autonomy)
- 自分の意思で行動しているという感覚
- 誰かに強制されるのではなく、「自分で選んでいる」という主体的な気持ち
2. 有能感(Competence)
- 自分には能力がある、うまくできているという感覚
- 努力した結果が成長や成功につながることで満たされる
3. 関係性(Relatedness)
- 他者とのつながりや共感、受け入れられているという感覚
- 家族、友人、同僚との信頼関係がこれに該当
これら3つの欲求が満たされると、人はより内発的に動機づけられ、自発的に行動するようになるといわれています。
重要な3要素である自立性、有能感、関係性についてもう少し掘り下げてみます。
自律性(Autonomy)とは何か?
「自律性」とは、自分の意思に基づいて行動しているという感覚のことです。
つまり、「自分で決めたことだから頑張れる」「これは私の選択だ」と感じられる状態です。
自律性が高いとどうなる?
- 行動に対する満足度が高まる
- モチベーションが長続きする
- ストレス耐性が向上する
- 自己肯定感が育つ
自律性が奪われると?
- 「やらされている」という感覚になり、やる気を失う
- 人の指示がないと動けなくなる
- 自分の人生を他人任せに感じるようになる
自律性を高める方法
- 選択肢を持つこと
例:「今日はどの課題から取り組もうか?」と自分に選ばせる。 - 自分の価値観に合った目標を設定する
例:「健康のために運動をする」より、「大切な家族と長く一緒にいたいから健康でいたい」 - 「なぜそれをやるのか」を明確にする
やる理由が自分の中で納得できていれば、指示された仕事でも主体的に取り組めるようになります。
有能感(Competence)とは何か?
「有能感」とは、「自分にはできる」「うまくできている」という感覚のことです。
ただし、他人と比較して優れていることではなく、自分なりの成長や成果を実感できることが重要です。
有能感が高いとどうなる?
- チャレンジ精神が高まる
- 継続的に努力できる
- 自己成長に喜びを感じる
- 「できた!」という成功体験が次の行動を生む
有能感が低いと?
- 自信がなくなり、挑戦を避けるようになる
- 他人の評価に過敏になる
- 学習性無力感(何をやっても無駄だという思い込み)に陥る可能性がある
有能感を育てる方法
- 適度な難易度の課題に取り組む
簡単すぎず、難しすぎない課題が最適。成功体験を積みやすい。 - 達成感を感じられるような目標設定をする
「毎日10分だけ勉強する」など、小さなゴールを定めて成功を積み重ねる。 - 具体的なフィードバックを受ける
「頑張ったね」よりも、「この部分が上達したね」という明確な言葉が自信につながる。
関係性(Relatedness)とは何か?
「関係性」は、自分が他者とつながっている、受け入れられているという感覚を指します。
人は孤立すると心理的な健康が損なわれやすくなりますが、誰かと信頼関係でつながっていると、それだけで安心感や幸福感が高まるのです。
関係性が満たされると?
- 孤独感や不安が軽減される
- 困難な状況でも支えを感じられる
- 自己表現しやすくなり、心理的な安全性が高まる
- モチベーションの回復が早くなる
関係性が損なわれると?
- 孤立感が強くなり、無気力に陥る
- 他人に対して過度に依存的になったり、逆に壁を作るようになる
- チームや集団でうまく協働できなくなる
関係性を育てる方法
- 感謝や共感の言葉を伝える
「ありがとう」「わかるよ、それ」など、心のつながりを意識する言葉が関係性を強化します。 - 信頼できる相手と過ごす時間を増やす
量より質が大切。スマホのやり取りだけでなく、直接会話することも重要です。 - 自分から心を開く
自分の気持ちや考えを素直に話すことで、相手も安心して接してくれるようになります。
自己決定理論を活用した生活・仕事・教育の改善方法
1. 生活への応用:やる気が続く習慣を作る
例えば運動習慣を身につけたいとき、「痩せるため」「他人に見られたくないから」という外的動機では続きにくいです。
それよりも「運動すると気持ちいい」「自分の体を大事にしたい」といった内発的動機を育てることで、長続きします。
ポイント:
- 自分で目標を設定する(自律性)
- 少しずつ成果を感じられる方法を選ぶ(有能感)
- 仲間と一緒に取り組む(関係性)
2. 仕事への応用:主体的に働ける環境を作る
上司からの命令やノルマだけで働いていると、ストレスや燃え尽きにつながります。
SDTに基づいたマネジメントでは、従業員の「内発的動機づけ」を高めることが重視されます。
実践例:
- 自分で業務の進め方を決められる(自律性)
- 成果が評価される仕組みがある(有能感)
- チームでの協働が活発(関係性)
これにより、従業員の満足度・パフォーマンス・定着率が向上すると言われています。
3. 教育への応用:学びたくなる授業づくり
子どもに「勉強しなさい!」と強制しても、なかなか内発的なやる気は育ちません。
SDTをベースにした教育では、「なぜそれを学ぶのか」を理解させ、子ども自身が学ぶ意味を見つける支援が重視されます。
実践例:
- 自分で選べる課題や探究活動(自律性)
- 成長を実感できるフィードバック(有能感)
- クラスメートや先生との信頼関係(関係性)
自己決定理論がもたらすメリット
- 長期的なモチベーションが維持できる
- バーンアウト(燃え尽き)を防げる
- 幸福感や人生の満足度が高まる
- 主体性や創造性が育まれる
- 健康習慣や自己管理能力の向上
一方で、外発的動機に依存しすぎると、やる気が不安定になり、報酬がなければ行動しなくなる「報酬依存」の状態に陥ることがあります。
自己決定理論を実生活に取り入れるヒント
- 「やらなければ」から「やりたい」への問いかけ
- 「どうすれば楽しめるか?」と自問してみましょう。
- 小さな成功体験を積み重ねる
- 成果を感じることで有能感が育ちます。
- 信頼できる人とのつながりを大切にする
- 誰かと一緒に取り組むことで、行動の意味が深まります。
- やらされ感が強いことは、自分で意味づけし直す
- 例:「通勤が面倒」→「健康のためのウォーキングだ」と捉え直す。
まとめ・感想
自己決定理論は、私たちがより人間らしく、幸福に生きるための土台を示してくれます。
やる気が出ないと感じたとき、無理に自分を奮い立たせるのではなく、「自律性」「有能感」「関係性」という3つの欲求が満たされているかを振り返ってみてください。
行動の根っこにある“動機”を理解することで、あなたの人生はもっと軽やかで、しなやかなものになるはずです。
燃え尽き症候群は私も経験があり、いい大学に入ることを目標に頑張っていたのですが、その大学に入れた後に燃え尽き症候群になってしまった過去があるため今回の外発的動機付けの意味は痛いほどわかります。
また自分で筋トレを始めたいと思い自発的に始めたのですが、それも半年以上モチベーションが続いているので内発的動機付けによりモチベーションが持続することも体験しています。
今までは体感でモチベーションがあるないを判断していたのですが、自律性、有能感、関係性が自分のやろうとしていることにあるかどうかを意識してよりよい生活を送れるようにしたいです。

